医療過誤 ワースト以下が「過失」
この十数年間で大きく様変わりした訴訟に「医療過誤」があります。
医療改善を目指す医師の皆さんの協力などで、裁判を起こす前に「見込みのある事件」と「あきらめるべき事件」のスクリーニングができるようになりました。
私も、患者側、病院側あるいは調停委員として医療過誤事件に関与してきました。
その経験を通じ、わかったことがあります。
それは、「過誤」を訴える患者の皆さん、あるいは医師の皆さんの側も、「過失」の概念を正確に把握していないということです。
多くの人が「ベストでなかったこと」を「過失」と考えがちです。
「もっとよい方法があったはず」
「あのときああすれば、命が助かったのではないか」
というだけでは「過失」=医療過誤になりません。
イチローだって、4割は打てない。
お医者さんも人間。
常にベストの治療ができるはずはありません。
では「過失」とは何か。
わかりやすく言えば、「ワースト以下」ということです。
およそ医者として許される下限=「ワースト」、その一線を越えたものだけが、損害賠償や処罰の対象となるのです。
言い換えれば、「ベスト」とは言えないが「ワースト以下」でもない…という領域があります。
それを意識すれば、「ベストでなかった」と思った医師は、素直に「力が足りず申し訳ない」と謝ることができるはずです。逆に、「医者が謝ったからミスに違いない。賠償を!」と短絡的に考えることができないこともおわかりいただけるはずです。
とはいえ。
「ワースト以下」の治療があるのも確かなんですよね。
そのときは、私たち弁護士の出番です。